幻想的な世界観で読者を惹きつけるデビュー長編
『遠い声、遠い部屋』は、1948年に発表されるやいなや、アメリカ文学界に大きな衝撃を与えたトルーマン・カポーティのデビュー長編です。作者の半自伝的な要素も含まれており、「早熟の天才」と称されたカポーティの才能が存分に発揮されています。
物語は、13歳の誕生日を迎えた少年ジョエルに届く一通の手紙から始まります。母を亡くし孤独な日々を送っていたジョエルは、幼い頃に生き別れた父親に迎えられることになります。父が暮らす南部の古びた屋敷で、彼を待っていたのは、ミス・エイミーとその従兄弟ランドルフ、そして近所に住む風変わりな少女アイダベルでした。しかし、肝心の父親はなぜか姿を見せず、屋敷では次々と不可解な出来事が起こります。この幻想的でどこか不穏な雰囲気を持つ物語は、読者を深く引き込む魅力に満ちています。
村上春樹氏が挑んだ「難儀をきわめた」新訳
本作『Other Voices, Other Rooms』がカポーティによって世に送り出されたのは1948年のことです。日本では1955年に河野一郎氏による翻訳が新潮社から刊行され、長年にわたり多くの読者に愛されてきました。この河野氏の訳を大学時代に読み、「むせかえるような小説世界に、否応もなく引き込まれてしまった」と語るのは、今回の新訳を手がけた村上春樹氏です。
約半世紀の時を経て、村上氏自身の言葉で『Other Voices, Other Rooms』が再び翻訳され、『遠い声、遠い部屋』として生まれ変わりました。村上氏は、本書の「訳者あとがき」で、「本書の翻訳は難儀をきわめた」と振り返っています。そして、「原文の醸し出す芳醇な空気と、繊細にして大胆なリズムを再現すべく、力を振り絞りベストを尽くした」と、翻訳にかける並々ならぬ熱意を明かしています。長年作品を愛してきた村上氏が、その独特の世界観をどのように日本語で表現したのか、ぜひ本書を開いてご自身の目でお確かめください。
物語のモチーフがちりばめられた装画にも注目
今回の文庫版の装画は、イラストレーターでありグラフィックデザイナーでもある三宅瑠人氏が担当しています。三宅氏は、NHK連続テレビ小説「虎に翼」のロゴやメインビジュアル、さらには新潮文庫『百年の孤独』の装画を手がけたことでも知られる実力派です。彼の描く絵は、見る者を惹きつける独特の魅力があります。

本作の装画には、小説中に登場する様々なモチーフが巧みにちりばめられています。物語を読み進めるうちに、装画に描かれた要素と小説の内容との間に、新たなつながりや発見がきっと見えてくることでしょう。視覚からも作品の世界観を深めることができる、魅力的な装画にもぜひご注目ください。
著者・訳者紹介
トルーマン・カポーティ
1924年ニューオーリンズ生まれ。19歳の時に執筆した短編「ミリアム」でO・ヘンリー賞を受賞し、その才能を早くから認められました。1948年にデビュー長編となる『遠い声、遠い部屋』を刊行し、「早熟の天才」として絶賛を浴びました。代表作には、短編集『夜の樹』、長編小説『草の竪琴』、『ティファニーで朝食を』、ノンフィクション・ノベルの先駆けとなった『冷血』、そして未完の絶筆となった『叶えられた祈り』などがあります。晩年はアルコールと薬物中毒に苦しみ、1984年に60歳で死去しました。彼の作品は、その鋭い人間観察と独特の文体で、今なお多くの読者を魅了し続けています。
村上春樹
1949年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、1979年に『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞し、作家としてデビューしました。主な長編小説には、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、社会現象を巻き起こした『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『スプートニクの恋人』、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『騎士団長殺し』、そして最新作の『街とその不確かな壁』など、多数のベストセラーがあります。また、『螢・納屋を焼く・その他の短編』、『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集やエッセイ集も数多く発表しています。翻訳家としても活躍しており、スコット・フィッツジェラルドやレイモンド・カーヴァーなど、様々な作家の作品を日本に紹介しています。2006年にはフランツ・カフカ賞、オコナー国際短編賞を、2009年にはエルサレム賞、2011年にはカタルーニャ国際賞、2016年にはアンデルセン文学賞、2022年にはチノ・デルドゥカ世界賞を受賞するなど、国内外でその功績が高く評価されています。
書籍情報
トルーマン・カポーティ氏の『遠い声、遠い部屋』は、村上春樹氏の新訳によって新たな命を吹き込まれました。この機会に、アメリカ文学の不朽の名作をぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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タイトル: 遠い声、遠い部屋
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著者名: トルーマン・カポーティ
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訳者名: 村上春樹
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発売日: 2026年2月28日
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造本: 文庫
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定価: 935円(税込)
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ISBN: 978-4-10-209510-2
新潮文庫から発売されたこの新訳版は、カポーティの生み出した幻想的な世界を、村上氏ならではの繊細な言葉遣いで堪能できる貴重な一冊となるでしょう。文学ファンはもちろん、これまでカポーティ作品に触れたことのない方にも、この機会にぜひご一読をお勧めいたします。


