阿部和重、32年間の思考の記録を集成した『阿部和重覚書 1990年代-2020年代』3月27日発売

小説

思考の軌跡を辿る圧巻の目次

本書の目次には、阿部和重氏の広範な関心と深い洞察が凝縮されています。その内容は、映画、文学、漫画、音楽、アイドル、そしてアメリカ文化や社会問題まで、多岐にわたります。

以下に、本書の目次の一部を抜粋してご紹介します。

創作について

自身の小説執筆における思想や、連載小説「ブラック・チェンバー・ミュージック」を終えての考察など、作家自身の内面を垣間見ることができます。

現代映画と疑似ドキュメンタリー問題

アルノー・デプレシャン、ジャン゠マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ、ヴィム・ヴェンダース、ジャン゠リュック・ゴダール、黒沢清、青山真治、アルフレッド・ヒッチコック、アッバス・キアロスタミー、クリント・イーストウッド、蔡明亮といった国内外の著名な映画監督たちの作品を深く分析し、映画という表現形式の可能性と限界を探ります。特に「ドキュメンタリー的」な仮構という「流行」や、日本映画におけるそのスタイルの行方についての論考は、現代映画批評において重要な視点を提供するでしょう。

文学覚書

大江健三郎、蓮實重彥、中上健次、大西巨人、後藤明生、谷崎潤一郎といった日本文学界の巨匠たちへの追悼文や解説、作品論を通じて、彼らの文学が持つ意義や影響力を考察しています。蓮實重彦氏の『映画時評』や『ジョン・フォード論』に関する考察も含まれており、文学と映画の交差する領域にも光を当てています。

漫画覚書 コマの外ではなにが起きているのか

「あだち充」の作品群における「無人の風景」や「不在」の描写、さらに『頭文字(イニシャル)D』の反復構造、『監獄学園(プリズンスクール)』の試論など、漫画というメディアの持つ表現力や奥深さについて、独自の視点から掘り下げています。ヤンキー文化を巡る考察も収められています。

音楽/アイドル

松浦亜弥のコンサート評や、アイドルが持つ「奇跡のファンタジー」について考察し、現代社会におけるポップカルチャーの役割と影響力に言及しています。また、具体的な楽曲や映画作品に焦点を当てた「音楽/映画覚書」では、『おしゃれキャット』、『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』、『戦場のメリークリスマス』など、幅広いジャンルの作品が取り上げられています。

アメリカ/ハリウッド

「アメリカ合衆国中枢同時テロ事件」を巡る映像とハリウッド映画、トランプの時代における「まことしやかな噓」など、アメリカ社会や文化、そしてハリウッド映画が映し出す現実と虚構について鋭い批評を展開しています。ジェームズ・キャメロン、ローランド・エメリッヒ、スティーブン・スピルバーグといった監督たちの作品分析も含まれます。

DIARY/災禍/COVID-19/公共性

小説家たちの日記リレーや、テロと戦時下の2022-2023日記リレーといった時事的な記録。さらに、東日本大震災後の「地上にひとつの場所を」や、COVID-19パンデミック下での思索、そして現代における公共性の問題など、時代を象徴する出来事に対する阿部和重氏の応答が記されています。

作家・阿部和重の軌跡

阿部和重氏は1968年山形県生まれ。1994年「アメリカの夜」で群像新人文学賞を受賞しデビューしました。その後も文学界に数々の金字塔を打ち立てています。

主な受賞歴は以下の通りです。

  • 1999年:『無情の世界』で野間文芸新人賞

  • 2004年:『シンセミア』で伊藤整文学賞・毎日出版文化賞

  • 2005年:『グランド・フィナーレ』で芥川龍之介賞

  • 2010年:『ピストルズ』で谷崎潤一郎賞

これらの受賞作に加え、『キャプテンサンダーボルト』(伊坂幸太郎氏との共著)や『オーガ(二)ズム』など、常に現代日本文学をリードする問題作を発表し続けています。阿部和重氏は一貫して、現実社会と物語の間に生じる歪みを凝視し、その危うさと、危うさのなかを生きる人間の純粋さを描き出してきました。

現代に響く思考の記録

本書は、阿部和重氏が「序」で述べているように、「一個の主観を通してたどる32年間の(世紀をまたぐ)同時代史として有用」であり、「阿部和重なる個体が25歳から57歳にいたるあいだに示した散文的エージングの定点観測」とも言えるでしょう。

映画、文学、漫画、音楽、アイドル、事件報道など、多岐にわたるテーマを扱いながらも、本書全体を貫くのは「物語はどのように現実を形づくるのか」「現実はどのように物語化されるのか」という根源的な問いです。

分断が日常的に生じ、言葉や情報を安易に信じることができない現代において、本書が提供する知見は、私たちが生きる「いま」を理解するための確かな手掛かりとなるでしょう。世界中のあらゆるシーンで情報の氾濫が問題となる時代だからこそ、この一冊は切実な意味を持つ思考の記録と言えます。

本書のデザインは、デビュー当時からの盟友であるグラフィックデザイナーの常盤響氏が手掛けています。収録作品の一部試し読みなども近日公開される予定ですので、ぜひご期待ください。

書籍情報

  • 書名: 阿部和重覚書 1990年代-2020年代

  • 著者: 阿部和重

  • 仕様: 46判変形/上装/736ページ

  • 発売⽇: 2026年3⽉27日

  • 税込定価: 4,950円(本体4,500 円)

  • ISBN: 978-4-309-03255-9

  • 装丁: 常盤響

詳細については、河出書房新社のウェブサイトをご覧ください。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309032559/

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