アニメ・漫画『チ。』の登場人物たちとそのモデル〜地動説を命がけで追求した人々〜

チ。登場人物 その他

『チ。-地球の運動について-』は、魚豊(うおと)氏によって『ビッグコミックスピリッツ』で2020年9月から2022年4月まで連載された漫画作品です。2024年10月から2025年3月までNHK総合テレビでアニメ化され、大きな話題を呼びました。15世紀のヨーロッパを舞台に、禁じられた「地動説」を命がけで研究する人々の物語を描いたフィクション作品です。

「チ」の意味は「大地(だいち)」「血(ち)」「知識(ちしき)」の3つを表しており、「。」(句点)は地球が停止している状態を表現しています。つまり「チ。」というタイトルには「地球は動くのか、動かないのか」という物語のテーマが凝縮されています。

2025年2月時点で、単行本全8巻の累計発行部数は500万部を突破する人気作品となっています。「このマンガがすごい!2022」オトコ編で第2位、「第26回手塚治虫文化賞」マンガ大賞、「第54回星雲賞(2023年)」コミック部門を受賞するなど、高い評価を受けています。

NHK総合「チ。―地球の運動について―」公式サイト

『チ。』の物語構成と主人公含めた登場人物たち

『チ。』は全4章からなり、各章ごとに主要な登場人物(主人公)が変わる特徴的な構成を持っています。原作者の魚豊氏によれば、この構成は「何かが大きく変わる時は1人の天才が変えるのではなく、様々な人たちが意識的か無意識的に協力した結果大きなものが変わる」という考えに基づいています。これは地動説という革新的な概念が歴史の中でどのように受け継がれていったかを表現するための工夫です。

第1章:12歳の神童ラファウ

ラファウ(声優:坂本真綾)
12歳でありながら飛び級で大学進学を認められた神童。大人びた性格で合理的な考え方をする少年であり、地動説を研究していたフベルトと出会い、地動説の虜となっていきます。「世界チョレ〜〜〜」という言葉を口癖とし、世間を見下した発言をすることもある複雑なキャラクターです。

原作者の魚豊氏は、ラファウを真面目なキャラクターにしなかった理由について、「世渡り上手で合理的な少年の方が身近に感じ、多くの読者が感情移入してくれるのではないか」と考えたとしています。

実在のモデルがいるかという質問に対しては、「特定のモデルはいませんが、僕の考える『器用な人』というのがラファウのようなキャラなんです」と答えています。「合理的にスキルを磨いてひたすら『上』を目指す」という人物像に魅力を感じたようです。

アニメ『チ。』主人公一覧|モデルになった人物はいる?声優は誰?

第2章:代闘士オクジーと仲間たち

オクジー(声優:小西克幸)
元代闘士(依頼者の代わりに決闘を行う職業)で非常にネガティブ思考の男性。同僚のグラスが異端者に感化され、その異端者に言われて向かった場所で地動説の研究資料が入った石箱を発見します。地動説に深く関わるつもりはなかったものの、バデーニに言われるまま観測の手伝いをすることになり、徐々に地動説研究に傾倒していきます。

魚豊氏は、オクジーについて「仕事で人を殺すという意味においては、ノヴァクと表裏一体のキャラ」だと表現しています。また「『死』や『生』について悩むため、主人公としての成長の余地があると思う」とも語っています。

バデーニ(声優:中村悠一)
教会の規律に従わなかったことで右目を焼かれ、田舎の村に左遷された修道士。非常に聡明で、オクジーが見つけた地動説に関する資料を見て「宇宙が変わる」と確信します。魚豊氏はバデーニについて「世渡りが下手な、大人になったラファウ」というイメージもあったと述べています。

ヨレンタ(声優:仁見紗綾)
天文研究所で働く女性。非常に優秀でありながら、女性という理由で虐げられ研究員としては扱われず、雑用を命じられています。バデーニが掲示した天文問題に回答したことがきっかけで地動説研究に加わることになります。

作者は登場人物について、史実の人物をモデルにしていないことを明言しています。特にオクジーのキャラクターに関しても、実在の天文学者をモデルにしているわけではなく、完全なオリジナルキャラクターとして創出されています。

チ。-地球の運動について-オクジーの性格や実在のモデル・歴史上の人物

第3章:移動民族の少女ドゥラカ

ドゥラカ(声優:島袋美由利)
移動民族の女の子で、神を信じていません。「不安が消えるまでお金を稼ぐ」ことが信念であり、村の発展に大きく貢献しています。偶然、異端解放戦線のメンバーが隠した地動説に関する本を読み、本に価値を見出します。

シュミット(声優:日野聡)
異端解放戦線の隊長。ドゥラカと共に地動説の活版印刷をひそかに実行しようとします。

成長したヨレンタ(声優:行成とあ)
第2章から25年後、異端解放戦線の組織長となり、地動説を広めるために活版印刷での本の制作を計画します。

第4章(最終章):アルベルト・ブルゼフスキ

アルベルト・ブルゼフスキ(声優:石毛翔弥)
パン屋で働く青年。情報収集によって相場を予測した概算を出し、パン屋の経営に貢献しています。後にクラクフ大学に入学し、教員となります。

アルベルトは他の主人公と異なり、史実に実在した人物をモデルにしていると考えられています。実在したアルベルト・ブルゼフスキは1400年代のポーランドの天文学者で、クラクフ大学で教鞭をとっていました。後に地動説を提唱することになるニコラウス・コペルニクスは、このアルベルトの生徒だったとされています。

『チ。』のもう一人の主要キャラクター:ノヴァク

ノヴァク(声優:津田健次郎)
元傭兵の異端審問官。常にけだるげな態度をとり、地動説を否定する立場にいますが、第1章から第3章まで登場する唯一のキャラクターとして物語の重要な役割を担っています。

魚豊氏は、ノヴァクのキャラクターについて「人物造形のヒントにしたのはナチスのアドルフ・アイヒマン」だと明かしています。アイヒマンはアウシュヴィッツ強制収容所へ無数のユダヤ人を送った人物で、「仕事」として淡々とそれをこなしていたと言われています。ノヴァクも同様に、特にファナティックなわけではなく、ただ毎日の仕事として異端者を拷問し、処刑しています。

魚豊氏は「ある意味で最も普通な価値観のキャラクター」であり、「人間はちょっと疑うのをやめれば、すぐに仕事として平然と残酷なことをやれるのかもしれない。そういう怖さを出せればいいな」と語っています。

『チ。』作者・魚豊インタビュー

『チ。』の登場人物と史実の関係

『チ。』は15世紀のヨーロッパを舞台にしたフィクション作品ですが、一部史実を彷彿とさせる要素があります。しかし、作者は「登場するキャラクターはほぼ全員が架空の人物であり、物語内で言及される国『P王国』や宗教『C教』も創作されたもの」だと明言しています。

フィクションと史実

魚豊氏はインタビューで「史実ではどうやら、地動説ってそこまで迫害を受けてはいなかったらしい」と語っています。実際の史実では、地動説を唱えたコペルニクスは領主司祭を務めるなど教会と良好な関係を持っていました。

一方、コペルニクスより後の時代に、反教会的な主張をしたジョルダーノ・ブルーノは地動説に基づく宇宙観による自説を撤回せず、1600年に火刑に処されています。

『チ。』では、こうした史実と異なる部分を意図的に創作し、「この勘違いも面白く感じて、テーマにしたいと思った」と魚豊氏は述べています。

P王国のモデル

『チ。』の舞台となる「P王国」は、ポーランドをモデルにしていると考えられています。特に第4章(最終章)では、「1468年 ポーランド王国 都市部」という明確な記述がなされています。登場人物の名前もポーランド語の名前が基本となっています。

『チ。』から学ぶこと:「命をかけられるものがある人生」

『チ。』の各章の主人公たちは(アルベルトを除いて)全員が命を落としますが、その想いや研究は次の世代へと受け継がれていきます。魚豊氏は『チ。』で描きたかったテーマを「地動説を信じる人たちが立場や時代を超えて決死の想いでバトンを託していき、『命をかけられるものがある人生は幸せだ』というテーマを描きたい」と語っています。

コロナ禍での執筆について聞かれた際には「死について考えると逆説的に人生の意味についても考えるし、多分それは無駄ではない。確かに死ぬことは怖いけど、ではなぜ私は生まれたのだろう、とか、いつ来るかわからない死を前に、いかにして自分に嘘をつかずに自分らしく生きられるのか、とか、それらの推論は死という事実を受け入れることによって始まる気がして。そういった感覚は『チ。』のひとつのテーマ」だと述べています。

まとめ:『チ。』の登場人物とモデルについて

『チ。』は多くの魅力的なキャラクターが登場する作品ですが、最終章に登場するアルベルト・ブルゼフスキを除いて、ほとんどの登場人物が特定の実在の人物をモデルにしているわけではありません。ただし、異端審問官ノヴァクはナチスのアドルフ・アイヒマンの人物像を参考にしていると作者が明かしています。

アルベルト・ブルゼフスキは実在した天文学者と同名であり、コペルニクスの師匠でもあった人物です。作品内でも同様の経歴が描かれており、史実との繋がりを示唆しています。

『チ。』の魅力は、特定の時代の歴史的事実を描くことではなく、「真理を追求する」という普遍的なテーマを、様々な立場や時代の人々を通して描き出している点にあります。それぞれの登場人物が自分なりの動機で地動説に関わり、命をかけてその真理を次の世代へと繋いでいく姿は、読者に深い感銘を与えます。



この記事では『チ。』の登場人物とそのモデルについて解説しました。皆さんは『チ。』のどのキャラクターに最も共感しましたか?

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